敷居が高く、簡単には心を許さないパリのテーラーについて語れる日本人ジャーナリストは、ほとんどいない。それは何故だろうか?
世界中のROYALfamily、国家主席達は何故パリのテーラーでスーツを注文するのだろうか?
それは、クオリティに対する厳しさと、美しいものを見定める審美眼がことのほか高いのがパリのタイユールだからである。
1950年以降、イタリア、スペイン、ギリシャ、スイス始め、かつてフランスの植民地だったベトナムやコートジボワールなど、数えたらキリがないほど多くの国籍を持った移民達が、パリを目指した。
胸に強く秘めたPassion (物作りへの情熱)を持ち、最高に美しいものはパリに集まる。
『我こそは世界一の腕』そう信じて彼らは勝負してきたのだ。
ミラノでオッケーと言われる仕事がパリではノーと突き返される。ロンドンで日々当たり前に納品されるスーツがパリのテーラーでは床に叩きつけられ、こんなもの作り直せ!と言われる。鈴木健次郎が修行したアトリエでは日常的に見られる光景だった。
鈴木がチーフカッターを勤めたタイユールの顧客リストには、某国王始め数々のRoyal familyからの注文が年間800着入り、そのスーツは世界中の人々から見られる。
求められるのは、最高のクオリティだった。
ヨーロッパにおいて、価格というのは絶対的なものである。日本において『安くて良いもの』という認識は現地では皆無と言って良い。『良いものは必ず高い』逆に言えば『高いものにはそれに見合う理由がある』と考えられている。
タイユールの世界では、パリの価格はヨーロッパの中で群を抜いて高価だ。ロンドンの倍、ミラノの1,5倍、ナポリのテーラーと比べると約8倍から10倍。日本のテーラーと比べては約3倍以上高価だ。
そこにはクオリティプライス(価格に見合った品質)が確実に存在する。
作品にQualité(品質)が無ければ、一瞬で淘汰されていくのがパリ。
良いものは生き残っていくが、そこで評価されるのは簡単なことではない。
鈴木健次郎は、このパリという街で日本人で初めてチーフカッターに就任し、その後多くの偉業を成し遂げたタイユールである。
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